25分の1の役割

25人

この数字が何を意味するか、聞いただけでピンとくるものがあればかなりの野球マニアだろう。

25人、それは現在NPBで1軍にベンチ入りできる選手の最大数である。どのチームもこの25人で1試合を戦わなければいけないし、交流戦だろうとCSだろうと日本シリーズだろうとそれは変わらない。つまりこのベンチ入りメンバーの数においては全チーム平等なのである。

そして、ベンチ入りしている25人の選手には何らかの役割が与えられており、中には特定の役割が割り振られている選手もいる。その中でも代走という役割をこなせる選手は貴重である。走塁の上手い下手は置いておいて、単純な「足の速さ」というのはプロ入り後に急激に上達するものではなく、言ってみれば天性のようなものだからだ。その足の速さに走塁のうまさが加わって所謂「走塁のスペシャリスト」が誕生するのだ。

今シーズン、中日はとにかく代走不足が顕著だった。主に代走として活躍したのは亀澤と遠藤。両者ともにほぼシーズン通して1軍に帯同し、代走としての出場が多かった。

しかし、亀澤が今オフに戦力外通告を受け、遠藤もシーズン通して1度も2軍行きこそなかったが、盗塁成功4回で成功率50%という何とも微妙な成績を残してしまった。つまるところ代走がスペシャルになれなかったのである。少し厳しいが、2人とも首脳陣を足で満足させる存在とは到底なれなかったことは明らかだろう。

 

一方、他球団に目を移すと、DeNA・ヤクルトはここぞの代走は特にいない(前者は石川雄洋、後者は田代将太郎だろうか)ものの、広島は曽根海成、阪神は植田海、巨人は重信慎之介と増田大輝と足だけで十分活躍できる選手が揃っている。さらにパリーグではソフトバンクで周東佑京というまさに「足のスペシャリスト」が活躍し、CSでの下克上&日本シリーズ制覇に大きく貢献した。周東はプレミア12に向けた侍ジャパンにも召集されており、現在日本No.1の代走であることは疑いようがない。

圧倒的な長打力か、決して途切れることのない打線がない限り、リーグ優勝や日本一、そして世界一を目指すには走塁の力というのは必要不可欠なのだ。球界No.1の圧倒的な打線の力がある西武の山賊打線ですら、金子や源田を始め走れる選手がスタメンに揃っているという状況を鑑みれば、もはや走塁の力なくして継続的な勝利を望むことは不可能に近い状況になっている。

振り返れば、落合監督の黄金期でも英智という最高のスーパーサブがいた。(もっとも彼は守備面での貢献のほうが目立っているが走塁でも確かな能力を持っていた)原監督が以前に巨人の監督をしていた頃は鈴木尚広というthe足のスペシャリストが接戦の終盤になると必ずと言っていいほど出場していた。そして繰り返すようだが、今年のソフトバンクには現役最高の代走・周東がいた。

では来シーズンの中日において「足で稼げる」選手はだれだろうか。

候補にはもちろん、今シーズン活躍した遠藤がいるし、シーズン前半は1軍に帯同した渡辺勝も足は速い。ただ、中日の2軍には彼らをも凌ぐ可能性を秘めた逸材がいる。その選手こそが高松だ。最近は伊東ヘッドが注目しているという記事でもネット上をにぎわしている存在である。

彼の能力はたびたび2軍戦のネット中継で話題になり、「異次元の俊足」だとか「中日の韋駄天」だとか呼ばれていたくらい、まさに足で稼げる選手である。根尾くんと同時に1軍の甲子園でデビューした際には代走で出場し、足の速さを見せつけてくれた。

ただし、彼には致命的な弱点がある。それが盗塁の技術不足である。2軍でも盗塁成功率は致命的なほどであり、ましてや小林や梅野、中村といった名だたる強肩捕手がひしめき合うセリーグの1軍においては現状では成功率は20%程度だろう。

それでも今の中日には荒木雅博という中日が誇るレジェンドと前述した英智が2軍の守備走塁コーチとして君臨している。この2人に任せれば盗塁を含めた走塁技術の向上は間違いない。高松がビシエドの、周平の、福田の、新外国人の、代走として輝く姿をみるのもそう遠くないだろう。

たった25人しか入れない1軍のベンチ。その中に「代走」という極めて特殊な役割を持った選手が入れるかは入れないか。それによってそのチームの「チームとしての強さ」もおのずと明らかになる。